新しい契約形態での受託開発サービス | 永和システムマネジメント
業界のこれまでの慣習では、受注して要件定義後に見積もりをし、納品してから一括でお金を頂くという形が通常だったが、これをなんと、初期費用ゼロ、月額課金方式にしようというのである。まさに革命的と言える。
これを彼らがアジャイルの文脈で語るのは、この方式が要件定義や開発手法から自由になる為であろう。
これまでのやり方だと、どうしてもまず「見積もり」が必要になる為、最初にある程度完成形を見極める必要がある。それも、その見積もりは精度が高ければ高いほど良い。それが顧客にとっても開発側にとってもメリットとなっていた。
しかし、アジャイルでは、「作る前にそんな高い精度の見積もりをするのは無理だ」というスタンスである。システム要件というのは作りながら決まっていくものであり、そもそも顧客自身が「自分が何が欲しいのか」をなかなか決められない事は多いというのは、私自身も経験上、実感できる。
この、アジャイルな開発手法に最も適した契約形態はなんだろうか、と考えて導き出されたのがこの初期費用ゼロの月額課金方式、なのだろう。
パッと見て、この方法にはいくつかの疑問が浮かぶ。
まず、「改造費用は誰が持つのか」。初期費用ゼロで作って、後は月額で長くお金を頂きながら費用を回収する・・・そこまでは分かる。しかし、システムというのは使いながらも改修が行われて行くものだ。その費用はどうするのか?
サービス概要を見ると、どうやら「ある程度は月額料金の中で対応しますよ」ということのようだ。また、一定量を超えたものについては別料金ということになるらしい。「チケット」という、1人日にあたる稼動を利用できるものがあるようなので、それを追加購入する形になるのかもしれない。
いずれにせよ、このモデルだと、月額料金のうち一部は改修費用として消えていくようだ。つまり、結構安いように見える月額料金は、さらに「お買い得」な料金なのである。
300万円の小規模システムを月額15万円のプランSSで作ったとして、これがペイできるのは20ヵ月後・・・ではなく、1チケット(1人日=5万円とする)料金を抜くと、10万円×30ヶ月(約2年半)である。
しかし、実際の所、この30ヶ月の間に必要とする改修(保守・サポートも含む)費用は、30人日程度で済むものなのだろうか? いや、実際には「打ち合わせ」「緊急呼び出し・対応」など、意外とコストがかかるものである。
そうなってくると、これを採算ラインに乗せる為には多くのケースで「追加費用」が発生するものと思われるが、それを頻繁にやってしまっては、この契約形態の意味が薄れてしまう。
私が思うに、この契約形態の面白さは、「システムをよりよくする為のリスク」を、なぜか顧客側ではなくシステム側が負っているというところにある。
これまでは、「システムのこの部分をこのように変えると、とっても良くなりますよ。ただ、その分お金がかかります」という提案しか出来なかったものが、「こうするともっと良くできますよ。もちろん月額料金の範囲内で可能です」と提案できる。
開発側としては、それでシステムがよりよくなり、サポートコストが下がったり、単純に長く使えるようになれば、メリットがある。
こういうシステム改善提案が気軽にできるようになるというメリットが、この契約形態にはある。
しかしそれが採算ラインにのる為には、あくまでも月額料金による収入が、かかるコストを上回る必要がある。
この辺はやってみないとわからない部分だろうと思うのだが、私の感覚では、月額15万円のプランSSではペイしないだろう。恐らく持ち出し部分が多く、小さな要望を細々とこなす、非常に効率の悪い小さなコストが積み重なり、結果的に技術を安売りしているだけの商売になる恐れがあるように思う。
逆に、ある程度高い案件では、これはそれなりのメリットを生み出すかもしれない。月額料金が高ければ高いほど、長く使って貰うことのメリットが生まれる。これは当たり前の計算だが、300万円で作ったシステムをプランSS月額15万円で40ヶ月使ってもらうと600万円、つまり300万円の利益になるが、3000万円で作ったシステムをプランLLで月額150万円で40ヶ月使ってもらえば、利益も当然10倍、3000万円になる。一度作ったシステムにかかる保守コストというのは、規模に単純に比例して大きくはならない為、結局は大きいものを作った方がメリットが高い。
しかし大規模なシステムをこの契約形態で売った場合、リスクも比例して大きくなる。もしそこまでして作ったものを、1年程度で「別のパッケージソフトに切り替えることにしました。今までありがとうございました」と言われたり、または「ゼロベースで作り直すことにしたよ」と言われてしまったら、どうするのだろうか?
いや、もっと単純に、採算ラインに乗る前に、その会社が倒産してしまったらどうする?
結局の所、どちらにしてもメリットの薄い商売、ということになってしまう可能性があると思うのだ。この辺のところは当然考えられていると思うのだが、どのような仕組みを用意しているのか気になるところだ(DELLのリース契約のように、3年間固定契約で、途中解約は違約金がかかったりとか?いや、サービス概要を見ると、いつでも解約可能、とある)。
ちなみに、「初期費用ゼロ、月額固定料金で制作します」といううたい文句は、実はウェブ制作業界でたまに見るパターンだったりする。(「初期費用ゼロ ホームページ制作」で検索すると、たくさんヒットする)
ウェブ制作業界でも、通常はシステム開発業界と同じく、見積もりの後制作、納入してから一括で費用を頂く、という形が一般的だ。
しかし、大抵のウェブ制作では非常に小規模な顧客を相手にすることが多く、50万円、100万円、といった規模の仕事も多い。そして、この金額がなかなか一括で出せない顧客もいるのである。
これを、手を出しやすいような「月額2万円」などの料金で、初期費用ゼロでウェブサイトを作ってあげましょう、と提案するのだが、一般的にウェブサイトの寿命はシステムと同じく3年程度である。ということは、月額2万円で36ヶ月だと、72万円で、もし100万円程度の費用で作った場合、ペイしない。
それどころか、この月額にはやはりある程度の更新も含んでいるので、単純計算では50万円にも満たない制作費しか残らない。これでは大して良いビジネスとは言えず、単に自分を安売りしているだけになってしまう。
もちろんこれにはからくりがある。
この方式で売るウェブサイトは、機能・レイアウト、ページ構成などがすでにテンプレート化されているのである。オリジナルデザインを適用したい場合には、別途オプション費用が必要になる。もちろんロゴ制作や写真撮影などは、多くのケースでオプション料金が必要になる為、本当に初期費用ゼロで作ろうとすると、「WordPressの無料テンプレートで自分で立ち上げた方がナンボかマシ」なサイトが出来上がってくる可能性すらある。とはいえ、普通の顧客には自力でそこまですることすら難しく、自社サイトが無いよりはよほどマシなことも多い為、これでも十分にビジネスになるのである。
テンプレートが用意されており、機能もある程度限定されている、という状況下においては、この月額料金制度はなかなか美味しいビジネスとなる。
なんせ、一度テンプレートをきっちり作りこめば、あとはそのコピーをどんどん売って行けばいいのだ。多少の個別カスタマイズは必要だろうが、基本部分は同じなわけなので、保守コストも非常に低い。
粗悪なテンプレートを量産する業者はあまり良いものとは言えないが、ちゃんと作りこんでカスタマイズも考えてあるテンプレートを用意してあるのなら、これはWin-Winの良ビジネスではないだろうか。
翻って、元のシステム業界に話を戻してみよう。
初期費用ゼロ・月額料金制で、うまみのある健全な商売をしようとした場合、どのような仕組みが必要だろうか?
もし、「システムテンプレート」のようなものを作ることができ、各顧客向けにカスタマイズ・パラメータを入力するだけでカスタム・ソフトウェアが生成されたりしたら、それは最高のビジネスになるだろう。
SEは顧客の要件に応じたパラメータを入力し、それを納品すればよいだけになる。
しかしこれではあまりにもアレだ。というか、全然アジャイルじゃない。単なるパッケージビジネスだ。用意したテンプレートが顧客の要望に対応できなければ、そこで終わりである。
しかし、これに限りなく近づけることは、努力次第で可能ではないだろうか?
良いシステム開発会社は、内部に「再利用可能なライブラリ群」を持ち、保守し続けていることが多い。続けて行くと、だんだんと「自社の得意分野」が見えてきて、その分野のソフトウェア・コンポーネントが固まってくるというのが、良いフィードバックだと思う。この発想を、もう少し推し進め、私なりの提案をしてみよう。
まず、自社で利用する技術やフレームワークをいくつかに絞り、限定してしまおう。そしてさらに、それらの組み合わせパターンをいくつか挙げて、それ以外の組み合わせは禁止とするのだ。これらのパターンは、日々メンテしていけば良いと思うが、パターンを1つ増やすときはいずれかの使われなかったパターンを廃止にするぐらいの勢いが大切だ。必要なのは絞込みと、「なんでもできます」を諦めることである。
これにより、保守コスト、アーキテクチャ提案コストが大幅に下がる。ハードウェアの組み合わせも大幅に減る為、調達コストも下がる。
次に、それらの技術・フレームワークを前提とした、汎用自社アプリケーション・フレームワークを規定しよう。それは別に完全自社開発でなくても構わないと思うが、ソースコードレベルからカスタマイズできるような体制になっているべきだろう。
このような形で、「再利用できるもの」を増やしておけば、このビジネスはソフトウェア・ライセンス業にかなり近づく。ソフトウェア本来の、コピー(再利用)してもコストはゼロという、爆発的な破壊力を秘めた特徴を可能な限り利用できる。
もしこのような体制を作らず、これまでどおり完全オーダーメイドで一から提案します、というような作り方のまま、「初期費用ゼロ、月額料金制」という提案をしてしまえば、それはむしろシステム業界の堕落につながるのではないかと危惧している。
なぜならそれは、「ソフトウェアの価値を一律料金で扱う」という、人月商売の悪しき習慣を彷彿とさせるからである。現場の人間は、どれだけがんばってよいものを提案しても、入ってくるお金は定額、しかも、これまでは終わったらガバッと入ってきたのに、これからは「対応まずかったらいつでも契約切るよ」という立場に追い込まれるのだ。
果たしてモチベーションが維持できるのだろうか?
月額料金を、「分割料金」という切り口で消化してしまってはいけない。月額料金は、あくまでも顧客との関係をよりよく改善し、維持していくための原資であり、その関係を築く最初の入り口となる「システム」を、毎回新たに一から作っているようでは、まずその「月額料金」は、システム開発・保守費用の「分割料金」として消費されてしまい、顧客との改善に向けられるコストは残っていないだろう。
言って見れば、この「初期費用ゼロ・月額料金」という制度は、本当の意味でソフトウェア開発業を「ビジネス」として捉えるための絶好の機会であると言えるのではないだろうか?
最後になったが、永和システムマネジメントさんのチャレンジには敬服するばかりである。これがきっかけとなり、新たな風がシステム開発業界に吹くことを願っている。この記事が何らかの示唆になれば幸いであるが、もしそうでないなら「全然分かってないな」と笑い飛ばし、前に進んで頂ければそれまた幸いと思う。
— posted by chikura @ 10:42AM | LinkMe | Comment (4) | TrackBack (0) | top↑
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